ハセガワ1/700 軽巡洋艦 天龍

ハセガワ1/700ウォーターラインシリーズの軽巡洋艦天龍です。



天龍は天龍型軽巡洋艦の1番艦。姉妹艦に龍田(たつた)があります。天龍型軽巡洋艦は巡洋艦の艦種が防護巡洋艦から軽巡洋艦に切り替わった時期にあり、太平洋戦争に参加した艦の中ではかなり古参、練習艦などとして残されていたものを除けば実戦的な巡洋艦の中では最古参でした。これは前級である筑摩型防護巡洋艦に較べ機関の出力が倍以上、3500t級の小柄な船体にも関わらず武装も新しいものが充実装備されていた事によります。後に同等サイズながらより先進的な夕張の登場により一気に陳腐化が進むものの、夕張と並行して建造された5500t級軽巡洋艦への設計の流れを作る事となります。
天龍は龍田と共に旧式ながらも太平洋戦争を戦い、最後はニューギニアのマダン上陸作戦支援中に後に大潮・漣・大鳳などを沈める米潜水艦「アルバコア」の最初の犠牲者となりました。



さてキットの方はというとこれがかなり古いブツ。ナンバーは309ですが旧ナンバリングだと85。ここで紹介したものの中だと矢矧より大分後で千代田に近いナンバー。とはいえウォーターラインシリーズはメーカー毎の技術差や同メーカー内でもテンション差などがあり、一概に古いからダメ、新しいから良いというわけではありません・・・





説明書。年代とかは記述が無くわかりませんがかなり古い雰囲気。ただパーツ数は少なく、サックリ組めそうな予感。(ハセガワの古い戦闘機キットを多く組んだ経験から言えば、どう見えようと油断は禁物・・・)



主要パーツ群。艦自体が小さいのもありますが、古い駆逐艦キットに毛が生えた程度です。



鉄板モールドなど、まあそこそこなディテール。船体側面のモールドがそこそこ付けられているので安心ですが、甲板上にはリノリウム押さえのディテールが無く、ややあっさり気味。



ディテールアップパーツは大型艦用のWパーツが2枚。ですが置き換えて使えそうなのはカッターと内火艇、ラジアルダビッド、25mm連装機銃くらいかも。小舟類はいいのですが連装機銃は下面のダボを切り飛ばして使うと良いでしょう。主要パーツの方のパーツもダメダメってほどではないので今回は使用しませんでした。14cm単装砲塔とかあったら良かったのだけれど・・・
駆逐艦などに付属のディテールアップパーツ(Xパーツ)から8cm高角砲が利用できますが、これも元パーツで十分かも。



それでは製作開始。まずは艦底パーツにバラストを載せますが、船体パーツと挟む構造ではないのでテープで固定しておきます。甲板は艦首の船首楼部分が別パーツですが、他のキットとは違い合わせ目が側面になるので船体側面がツライチになるよう合わせながら接着します。甲板パーツでよくある逆ハの字の上にV字のパーツをハメて合わせ目が上面に出るパーツ構成よりはこっちのが処理はしやすいでしょうか。



貼り合わせたところ。船体パーツの中央やや後方に丸い穴がありますが、この周の内側のバリはカッターなどで削り落としておかないとここへハメるパーツがスムーズに取りつきません。削りカスが中に入ると取り除くのが面倒なので先にやっておくと良いでしょう。



リノリウム色を塗ります。説明書に塗装指示が無いのでググってみますが、基本は鉄板モールドの無い平面部分全部で良さそう。リノリウム色の塗装箇所は大体正解が無いものと思って良いかと思います。船体の平面部分だけでも良いし、私は5500t型軽巡洋艦のセルター甲板に相当する甲板後半の一段高い位置の上面もリノリウム色にしてみました(上写真)。艦中部の煙突が取りつく一段高い部分や、艦橋の床面など、好みで好き好きに塗ってしまいましょう。



軍艦色2を基本にやタン、つや消し白などで各所を塗ったところ。艦底色も塗ってあります。



パーツの合わせにハセガワらしいバリなど若干のヤスリがけを要しますが、難しいところは全くありません。サクサク組み上げられます。ただ、煙突はD字の穴にダボの形通りそのまま差し込むと煙突が前へ傾いてしまうのでダボを切り飛ばして後ろへ傾くように前後逆に取り付けました。注意点はそこだけかな?



煙突先端や後部マストをつや消し黒で塗ったり、ゲート跡をレタッチして完成間近。駆逐艦キットより簡単なくらい。





エナメルジャーマングレーでウォッシングし、フラットブラウンで軽く錆表現。旗を取り付けて完成。





駆逐艦と軽巡の中間のような雰囲気があります。





実物の写真でよくみる角度。半年ほど前は軽巡はどれも全然見分けがつかなかったものでしたが、ちょっとかじっただけで各々が実に個性的なのに気付きます。



各部を観察。スプーンバウと呼ばれる艦首形状は5500t型へと続くものの結局は一過性のものに終わり、長良型以降は艦首の修理のついでにダブルカーブ型へ改装されてゆきますが、軽巡洋艦の艦首形状といったらやっぱりこれ。主砲は伊勢型戦艦の副砲として採用された14cm速射砲を単装4基、後部が開いた砲塔形状で搭載しています。艦橋が船首楼の後端ではなくやや前寄りにあるため、艦全体に対し艦橋がずいぶんと前寄りに置かれているのが特徴。



艦橋の後ろにも砲塔があり、その後ろは一段下がって魚雷発射管が置かれています。次級である球磨型では魚雷発射管の後ろが一段上がり全幅に亘る平らな甲板となりますが、天龍型ではまだ中央部のみが高くなっているに留まります。魚雷発射管はおなじみの61cmではなく53cmの3連装で、駆逐艦のように中央に置かれ左右どちらへも投射可能ですが艦の幅があるため発射管そのものが左右に可動するようになっていました(発射管の下にある2本のレールはその名残り)。結局は実用的ではないとして発射管の位置を少し上げてそのまま左右へ投射できるようにされています。ただ艦の幅的に中央に置けるのは駆逐艦か天龍型の幅が限度なようで球磨型以降は2連ないし4連装を左右に置いています。



艦後部。一段高い位置に後部マストが立てられ、その前後に14cm単装砲塔が前後を向いて搭載されています。この一段高い部分は5500t型では煙突周辺と連続したセルター甲板に変化してゆきます。一段下がってすぐの甲板上には40口径三年式8cm高角砲が鎮座しています。これは竣工時からあるいささか旧式な装備で、5500t型などでは煙突左右に置かれていたものの早期に13mmや25mmの機銃に置き換えられましたが、天龍型では機銃の追加はされたものの竣工時からの兵装は最後まで残されていました。



艦尾甲板には左右に機雷敷設用軌条、旗竿の左右には爆雷投下台。ディテールやパーツで再現されていませんがこの他に八一式爆雷投射機(三式とは別の「K砲」)が装備されていたようです。



再び煙突付近。煙突付け根の一段高い部分の左右に据え付けられている機銃台は後付けのもので、戦間期に13mm単装機銃→開戦後に25mm連装機銃と変遷しています。



艦橋は竣工時は屋根の無い露天艦橋でしたが後に屋根が付けられ密閉化されました。



全長の似た艦と並べたところ。手前から駆逐艦秋月、軽巡天龍、夕張、名取。



全長も建造年代も近い夕張ですがこちらは後に古鷹型重巡洋艦へと発展してゆく形で、かなり印象を異にします。



一方で長良型軽巡洋艦の名取は天龍型からの流れを色濃く残しています。



古さは否めないものの初心者にも比較的易しいキットです。エッチングパーツも別途用意すれば作り応えのあるキットにもなるでしょう。あとは好み次第。派手な艦の合間にでも。